宮 里 藍 ワールドカップ女子17年2月

 20カ国、40名で争われる第1回ワールドカップ女子ゴルフが、南アフリカにあるファンコードホテル&CCで開幕。日本チームは昨年の女王不動が辞退したため、2位宮里藍、3位北田瑠衣が選出されて、世界一の難コースに挑んだ。一日目は各チーム代表2人のうち、ホールごとに良い方のスコアをチーム成績とするフォーボール方式で行われた。

 腰まである深いラフ、狭いフェアウエー、前日の練習ラウンドでその難しさを味わい、慎重な出だしで始まった。1番では北田が、2番では宮里がラフに捕まったが、チームメートががんばってパーで切り抜け、攻めるゴルフができるようになった。のんびりした北田、緊張を切らさない宮里という組んだことがないコンビではあるが、カナダ・イタリアの上位陣には離されずフィリピン、オースツラリア、スエーデンとタイの3位につけた。

 2日目は二人が交互に打つ2ボール・フォアサム方式。二人の使用球は硬さの異なるボールで北田にとっては苦しい試合設定だったが、よく耐えて、初日トップに立ったカナダやイタリアなど上位チームがスコアを崩していく中、着実にスコアを伸ばしていき途中単独トップに立った。

しかし、終盤の17番で北田が短いパーパットを外し、18番のロングでは宮里が3打目をグリーンオーバー。結局18番もボギーとしてしまい6アンダー。スコットランドと並びトップタイで2日目を終えた。

 3日目は前半宮里藍が絶好調。10番までに6つのバーディを奪い、1番、7番と北田がボギーをたたいたがチームのスコアを10アンダーまで伸ばし、2位に6打差をつけ独走態勢を築いたかと思われた。

ところが、北田が11番でトリプルボギー、12番でボギーとスコアを崩すと、好調だった宮里も13番でボギー。さらに北田が14番でボギー、15番でダブルボギー、16番でボギーとずるずるとスコアを崩し、16番終了時点でトータル1アンダー。辛うじて韓国、フィリピンとともに1アンダーでトップをキープしていた。

残り2ホールとなった17番パー3。まず宮里がピンに絡むショットでバーディチャンスにつけると北田もワンオンに成功。初日からパットに苦しんでいた北田だったが、この勝負所で長いパットを一発で沈め値千金のバーディ。宮里も1メートル弱のバーディパットを決め2位に2打差をつけて逃げ切った。

 滅多に見られない宮里の涙、そして発音のいい英語の優勝コメント。もう19歳とは思えない世界一流プレーヤーとしての雰囲気を感じる。日本国内の深夜のテレビとしては希な10%台の視聴率だという。"横峰さくら"という絶好のライバルに恵まれた我が国の女子ゴルフ界は、当分目がはなせなくなった。

       
ベストホール
2ボール
4ボール
順位
国   名
パー比
通算
1日目
2日目
3日目
1
日  本
-3
289
68
72
149
2
韓  国
-1
291
74
68
149
2
フィリピン
-1
291
68
77
146
4
スコットランド
0
292
71
69
152
5
オーストラリア
+2
294
68
75
151
6
カ ナ ダ
+3
295
66
79
150
6
ウェールズ
+3
295
70
74
151
8
メキシコ
+4
296
69
78
149
9
イングランド
+5
297
69
74
154
10
イタリア
+6
298
66
75
157
10
スペイン
+6
298
71
79
148
12
南アフリカ
+7
299
73
75
151
13
フィンランド
+8
300
71
77
152
14
米 国
+9
301
69
74
158
15
フランス
+12
304
73
77
154
16
スウェーデン
+13
305
68
79
158
17
マレーシア
+18
310
74
79
157
18
ニュージーランド
+22
314
72
78
164
19
ド イ ツ
+29
321
72
88
161
20
オーストリア
+33
325
74
81
170
宮 里 藍 ANZレディス
 前の週、南アで優勝してオーストラリアに直行した宮里藍は、勢いをかってANZレディスに挑戦した。世界の強豪を相手に、いきなり首位を奪い、2日目、3日目とも好調を維持して2位とは4打差の首位を保ち、最終日を迎えた。

 4打差の首位で最終日を迎えた宮里は、最初のホールを失敗した。これが最後まで影響を引きずることとなる。
3日目、ショットが右へぶれるので修正しようと、ラウンド後の練習を専らタイミングの修正に費やした。パッティングについては、やや強めのファーストパットが成功し、はずしても返しをうまくねじ込んでいた。最終日、最初のホールでその強めのファーストパットがオーバーし、返しのパーパットも落としてしまった。
 次のホールからは距離を合わせるように変った。これでパーは取れるようにはなったが、スコアが伸びない、いわゆる守りのゴルフに変わってしまった。

 宮里を追うカーリー・ウエブ(豪州)は、好調だった。アイアンが常にピン筋を捕らえている。4番ではロングパットを決めてイーグルを奪い、8番では5打差あった宮里と並んだ。これから先は二人の勢いそのままに進展する、グリーンの状態が午後で芝が伸びて重くなった。これまでならば強めのストロークで決めていた距離も、距離を合わせると僅かに曲がる。

 ファーストパットが強い逆目で急停止し、スリーパットをして、14番を終わって2ストロークの差。ここからは底力を発揮して2連続バーデーを奪えなければ勝利のないところまで追い詰められてしまった。

 オナーで先に打つウエブも優勝が見えてくると体が動かなくなる。コースを熟知しているかどうかの差ではなく、気持ちよく打てているかどうかに掛かってくる。最終ホールの宮里の開き直ったドライバーは270ヤードの快心のショット。ウエブは芯を外してラフから僅かにフェアウエーに出たところ。バーデー・ボギーなら並ぶ。
 ウエブは歯車はかみ合ってないものの、逃げ切れば勝てるとの余裕だけは辛うじて保っていた。一方、正念場の宮里得意の100ヤードほどのアプローチは、ピンをダイレクトにオーバーする。おそらく練習場で打ったらピッタリと附けた絶好のポジションだった。打球感覚が平常を保てないのは経験の差かもしれない。最後の奇跡を念じたパットは僅かにはずれてパー。

 試合後のコメントは、「これが私の実力です」。それは、前を行く不動、後から追いかける横峰という好敵手を持ったが故に、ライバル意識を維持できる幸せな立場なのだろう。

 昨年のアテネ・オリンピック女子レスリングで「気合いダー」と活を入れてテレビの話題をさらった浜口京子と、その父親の

アニマル浜口。熱狂する父親と迷惑そうに従う娘の微笑ましい関係はコマーシャルにまでなっている。

 ゴルフ界でも負けていない。4歳から宮里藍にゴルフを教えた父親の優さんについて、テレビインタビューで答えた藍ちゃんの父親像は、優しくて厳しい理想の教育者としての父親である。ゴルフより大事なのは学校の勉強。マリナーズのイチロー選手の著書から「常に誇りをもって行動する」など沢山の教訓が教え込まれていた。

 中学校の卒業アルバムに残した将来の抱負として言葉「最高でもプロゴルファー、最低でもプロゴルファー」は固い決意をうまく表現する才能を遺憾なく発揮している。

 日常の練習や身体トレーニングで多忙にもかかわらず、テレビ出演にもしっかりと話を盛り上げ、将来のために英語のレッスンまで受けている。

 卓球の福原愛ちゃん。中国語では日常の会話に不自由はないそうだ。北京の大会から帰国直後に放映された、草野アナウンサーとのテレビインタビューで、出された杏仁豆腐に手をつけないので、「嫌いなの?」と聞かれ、「甘いものは体重が増えるから制限されています」と手をつけない。アナウンサーはカメラの後ろで見ている愛ちゃんのスタッフに「このくらいなら良いんでしょう」と同意を求めるとOKサインが返る。うれしそうに「ごちそうになります」。食べ終わって愛ちゃん、サイド・テーブルの上にある紅茶ポットを取って、慣れた手つきで草野さんのカップを手元へ持ってきてお茶を入れ、差し出す。自分の分も注いでポットを戻し、椅子の上に置いたナプキンを膝にかける。この一連の動作には流れがあって極く自然なのだ。

 運動選手は先輩後輩の序列が厳しい、年下の愛ちゃんはどこへ行っても先輩しかいないから、お茶を注ぐぐらいは当然のようにできる動作なのだ。そこには世界選手権クラスの強い選手という驕りは全くない、素直で好感の持てるただの女の子だった。

 そのように振る舞えるのも母親が付き添って厳しく指導しているからであって、決して甘やかさないが献身的な母親の愛情に裏打ちされてものだ。このような家庭がマスメディアによって紹介されたことで「子育てに悩んでいる」という全国の親たちは、ぜひ何かを学びとって欲しい。

 さて、新たに登場した父親が横峰さくらの父、良郎さんキャディだ。ヴァーナル・レディスで、ウオーターハザードにつかまった球の処理を、娘は後ろへワンペナで戻すという。父親は「そのまま思い切ってウオーターショットせよ。ワンペナでは200ヤード残るから4オンになってしまう。そのまま打てば3オンであがれる」と、がんばる。結局親父の言に従ってボギーでホールアウトした。

 前週サロンパス・ワールドレディスのラウンドでも娘は「今後は父のキャデーは断ります」と宣言したのだが、結果は依然として今回もキャデーを務めていたのだ。結局は4位、終わってのマスコミからの質問は「次の試合もお父さんにキャディをしてもらいますか?」「絶対いやです」とソッポを向く「お父さんとしては、どうしますか?」とマスコミの質問に、「さくらは、未だゴルフが全然分かっていないから」と出場意欲を示した。が、翌週の中京テレビ杯では父親は出場せず。その結果は初日から調子が出ず27位に終わる。

 一方、アマで1歳年下の諸見里が最終日の前日まで首位を保っていた。優勝したらプロになると宣言していただけに、最終日の緊張感は強かったのだろう。ついに宮里が逆転、2週連続で優勝し実力を見せつけた。

 次の週、廣済堂レディスは宮里欠場、横峰はダボが重なってプロになってはじめての予選落ち、父親のキャディはダメで、お父さんが付いていなくてもダメ。だと思ったとたん6月に入ってからの試合は予選を首位で通過。感覚でプレーするのでフィーリングさえ合えば実力は十分だったのである。

 目まぐるしく変わる新興勢力に対抗するベテラン勢。目が離せないヒートアップが続く。

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