経済学とは直接関係はありませんが、よく引用されるのはゲーテの『ファウスト』です。ファウストの死に当り、メフィストは次のように語ります。
どんな快楽にも飽き足らず、どんな幸福にも満足しない。
次から次と欲しいものを追っかけまわした男だった。
時計はとまった。
とまった。真夜中のように黙っている。
針は落ちた。
落ちた。仕事はすんだ。
この赤色の言葉は、原文では、Es ist vollbracht です。ところが新約聖書「ヨハネによる福音書」でこの言葉は十字架のイエスが最後に言った言葉として邦訳では「事おわりぬ」となっています。イエスの死で事おわったと理解してはなりません。「事が成就した」という意味なのです。つまり仕事がすっかり完了したという意味なのです。
この点で『ファウスト』の訳者手塚富雄氏は仕事はすんだと的確に訳されています。