上の図は、D.ウィンチの著書、Riches and povertyのなかにある挿図です。描かれている人物は肉屋の亭主で、こんなことをつぶやいています(おおまかに訳します)。’私には8人の子供がいる。もし夫々が8人の子供を持つとすれば、64人になる。そして同じように夫々が子供を持つと512になる。同様に512人は4096人に、さらに32768人に、それから262144人、2097152人へ、それもまた8人子供を持つと、16617210人へ・・・。なんとまあ、やせこけた家族に与える十分なパンなどあるのかね。’
これはマルサスの人口法則を皮肉ったものです。もっとも最後の計算は、2097152×8で16777216人となり、上の16617210人と違っています(計算間違いかしら)。これは、生活資料は算術級数的にか増えないが、人口は幾何級数的に増え、遂には食物が人口を支えきれず、困窮、餓死、間引き、堕胎、罪悪等をもたらす、というマルサスの人口法則です。
ところが実際には、このような乖離は生じません。長期的には生活資料と人口とは均衡しているのです。つまり、文明が進んで、ひとびとは生活資料の効率的な生産・改良を進める一方で、人口を抑制しようとする賢明さを持っているからです。今日では逆に少子化問題として人口減の悪影響すら懸念されるほどです。「ハテナ」はこれらを考察して、「マルサスの罠」と呼びたい、その訳をもう少し理論的に整理してみましょう。最低生活水準を越えて人口が大きくなれば、余分な人口は淘汰されます。また反対に、人口が最低生存費水準よりも小さくなれば、人口は増加しますから、結局人口は最低生存費水準に均衡して増加も減少もしなくなるのです。この均衡水準をマルサス的均衡の状態、或いはマルサスの罠と呼ぶわけです。そしてマルサスの罠にはまれば、一人当たりの所得は最低生存費であるから、所得の一部を貯蓄にまわす余裕はありません。所得はすべて消費されてしまうのです。