経済学の創始者とされるアダム・スミスは、一般には自由放任、共感、第三者の公平な観察者、自然の秩序と調和、利己心と利他心、分業の利益、競争による発展、等々のキーワードが浮かびますが、「ハテナ」の観るアダム・スミスは、究極的には腐敗の徹底的批判、追及にあった、と考えています。最晩年にスミスが手を入れた『道徳感情論』の推敲には特にその思いが強く出ているようです。最後の第6版(実際は第7版まで刊行されましたが、7版は殆ど改定されていませんので、通常は6版をもって最終稿とみなされています)のなかで、新たな章を設けたり、以下のような言葉の端々に示されるように、スミスがいかに社会の、また商人の腐敗を糾弾していたかがしのばれます。
富裕な人びと、上位の人びとに感嘆し、貧乏で卑しい状態にある人びとを軽蔑あるいは無視するという性向によってひきおこされる、われわれの道徳諸感情の腐敗について(新たな章)
この「腐敗」は、「知的、社会的および勇敢な徳性」の衰退をこえてはるかに深刻な問題だと憂うのでした。
人類のうちの大群衆は、富と上位への感嘆者であり崇拝者である・・・・・・が、こうした性向は、
階級の区分と社会秩序を確立するにも維持するにも、ともに必要であるとはいえ、同時にわれわれの道徳諸感情腐敗の大きな、そしてもっとも普遍的な原因である。