王様はザディーグを宰相にしました。ザディーグは詩の片篇を拾ってくれたオウムにお礼を言います。「美しい鳥よ」と語りかけるのでした。「わたしの命を救い、わたしを宰相にしてくれたのはおまえだ。・・・しかし、これほど奇妙な幸福は」と、彼はつけ加えました。「きっといずれ消えうせてしまうのだろう」。「そのとおり」と、オウムは答えました。さあ、これからが大変です。
ザディーグは毎日、その俊敏な天性の才と善良な心を申し分なく発揮しました。が・・・。
ザディーグの不幸は嫉妬に始まりました。彼の不幸は、彼の幸福そのもの、とりわけ彼の人徳に原因があったのです。彼の若さと魅力は知らず知らずのうちに王様の令室アスタルテをとりこにしました。そして王様の欠点は、だれよりも嫉妬深いということにあったのですから、もうたまりません。王様は、妻のスリッパが青く、ザディーグのスリッパも青く、妻のリボンが黄色く、ザディーグの縁なし帽が黄色いことに気づきました。王の処刑を恐れたザディーグはエジプトへ向けて逃亡しました。ザディーグは王妃のいる宮殿を振り返り、こういって嘆くのでした。
「いったい人間の一生とはなんだろう。おお、徳行よ!おまえはわたしにとってどんな役に立ってくれただろう・・・(中略)・・・わたしがしてきたよいことはどれも、いつだってわたしにとって不幸のもとになったし、わたしが権勢を極めたのも、世にも恐ろしい不幸の深淵へ落ちるためでしかなかった。もしわたしが他の多くの人たちと同じように悪人であったら、さだめしいま頃はわたしも彼らと同じように幸福になっているだろうに」
(この引用はヴォルテール『カンディード他五篇』岩波文庫 p.132〜133. その前後は同文庫を参照)
ザディークは一転して流浪の身となり、エジプトへの途上でさらに奴隷にまで落ちるという波瀾万丈の人生が彼を待ちかまえているのでした。が今夜はここでお終い。