原著の翻訳はわたしたち読書人にとっては大変有難く、即座に日本語で読むことができて大変便利です。訳者の側からしますと、原著者の意図するものを正確に伝えなければならないので翻訳の仕事はそれこそ自著以上に心血を注ぐことになります。
ところがときにとんでもない原著名と訳名との違いの著しいものがあります。
最近目にしたところでは、ポール・クルーグマンの『嘘つき大統領のデタらめ経済』。クルーグマンは現在最も人気のある経済学者でしかもアカデミックな分析で知られています。こんな題をつけるかなぁ〜と思って原著に当たると、The great unraveling でした。「偉大なる解明」としてはやや大掛かりですので、「ほんとうのことを言えば」とか「あたらしい経済の見方」とでも訳すればいいのに、「嘘つき大統領のデタらめ経済」とはいくらなんでもひどすぎますね。これも売らんがための出版社の捏造といっても嘘ではありますまい。これでは白石氏ほかの言う、翻訳とは裏切りである、という言葉にピッタリですね。
同教授の他の本に、『クルーグマン教授の経済入門』の原題は、The Age of Diminished Expectations です。直訳すれば『期待縮小の時代』とでもいうのでしょうか。経済入門書としてはちと難しい。でも経済学徒は入門書と信じて買う。出版社はしてやったりとまでは言いすぎでしょうが・・・。因みに訳者の山形浩生氏はユニークな翻訳をすることで有名かつ正確と「ハテナ」は信じていますので、これも出版社の意向によるのではないか、と邪推するわけであります。
(白石氏のことは、白石さや・白石隆訳、アンダーソン『想像の共同体』の訳者あとがきより引用しました)
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