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前夜からの続き

第271夜から第275夜まで

第271夜 - モダンとポストモダン

よく耳にするのは、「ポストモダン」の世界へ、とかモダンからポストモダンへとかという議論です。では一体モダンとポストモダンとはどう違うのでしょうか。その違いを言葉の特徴で表せば次のようになるでしょう。
モダン 大きな物語・統合・統一・同一化・単一性・真面目・オリジナル・生産・産業・理性・西洋・男性
ポストモダン 小さな物語・分裂・多様・差異化・異種混交性・遊び・コピー・消費・情報・感覚・非西洋・女性

言葉の羅列のみでは、その意味を掴むことは出来ませんが、何となくポストモダンの世界がイメージとして感ずることができるのではないでしょうか。

(岡本裕一郎 『ポストモダンの思想的根拠』より)

第272夜 - ポストモダンの出生

ポストモダンは恐らく建築から来た言葉でありましょう。これまでのモダン建築は装飾性を排し機能性を追及し、しかも整然とした対称性をもつものが多かったのでした。ところがこの建築に対し、遊び心を建築のなかに取り入れようとする動きが始まり、この建築様式をポストモダンと呼ぶようになったのだとされています。
この建築の表現は思想の世界へ取り入れられました。一言でいえばポストモダンは、「多義的」な「異質性」を特徴としています。このスタイルは80年代に、若い世代を中心に大流行しました。人々はモダンの世界から解放されたポストモダンの世界に住み、ライフスタイルを生んでいきました。モダンの統一的な価値や規範を放棄し、いわば「何でもあり」の時代になっていったのでした。

(岡本裕一郎 同上書より)

第273夜 - ふとった牛の誤り

ふとった牛を引くものは自分もふとっているはずである、という思い込みを指すイギリスの比喩のひとつです。これは多分サミュエル・ジョンソンから来て入ると思われます。別にふとった牛を引くものが必ずしもふとっている必要はないのですが、この隠喩が示唆するものは、学問そして政治経済の領域にしばしば暗黙のうちに入り込む誤解として引用されます。たとえば歴史上の人物を選んで書く場合、この人物の見解に知らず知らずに組して書いてしまうようなこと、あるいはその人物を現代に再現しようとしてその命題になんらかの意味において賛成している想定を持ってしまうことを意味します。しかしその人物に親近性を示すことはあってもあるいはその人物に共感する場合もあるけれども、その人物を推奨しているのではありません。そうでないとその人物に感情移入して偏った見方、書き方をしてしまいます。あくまで対象を客観的に置いて記述する態度を持たなければ真実は語れないのだということをこの隠喩は示していると思われるのです。

第274夜 - 原著題名の和訳はこうも違う?

原著の翻訳はわたしたち読書人にとっては大変有難く、即座に日本語で読むことができて大変便利です。訳者の側からしますと、原著者の意図するものを正確に伝えなければならないので翻訳の仕事はそれこそ自著以上に心血を注ぐことになります。
ところがときにとんでもない原著名と訳名との違いの著しいものがあります。
最近目にしたところでは、ポール・クルーグマンの『嘘つき大統領のデタらめ経済』。クルーグマンは現在最も人気のある経済学者でしかもアカデミックな分析で知られています。こんな題をつけるかなぁ〜と思って原著に当たると、The great unraveling でした。「偉大なる解明」としてはやや大掛かりですので、「ほんとうのことを言えば」とか「あたらしい経済の見方」とでも訳すればいいのに、「嘘つき大統領のデタらめ経済」とはいくらなんでもひどすぎますね。これも売らんがための出版社の捏造といっても嘘ではありますまい。これでは白石氏ほかの言う、翻訳とは裏切りである、という言葉にピッタリですね。

同教授の他の本に、『クルーグマン教授の経済入門』の原題は、The Age of Diminished Expectations です。直訳すれば『期待縮小の時代』とでもいうのでしょうか。経済入門書としてはちと難しい。でも経済学徒は入門書と信じて買う。出版社はしてやったりとまでは言いすぎでしょうが・・・。因みに訳者の山形浩生氏はユニークな翻訳をすることで有名かつ正確と「ハテナ」は信じていますので、これも出版社の意向によるのではないか、と邪推するわけであります。

(白石氏のことは、白石さや・白石隆訳、アンダーソン『想像の共同体』の訳者あとがきより引用しました)

第275夜 - 進化とポルノ

ヤヤヤとドキモを抜くのは、キャスリン・サーモン・ドナルド・サイモンズの著です。原題は、Warrior LoversーErotic Fiction, Evolution and Female Sexualityですが、これが何と『女だけが楽しむ「ポルノ」の秘密』という迷訳になっています。原題にしたがって訳せば、『女戦士ー性的小説、進化、女の性』とでもなりましょうか。「ハテナ」は戦うという語源をもつWarriorという単語が好きで武士、戦士、古つわもの、などの意味を持っています。さらによく注意してみると表題の右上欄に、(ダーウィン)進化論の現在(DARWINISM TODAY)と書かれています。編者も進化論を案内するシリーズの一巻と位置づけていますのに、ポルノ書と位置づけられそうな題名ですね。

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