この花見酒の経済によく似た事例はイギリスの文献にも見られます。J.S.ミルの初期著作集のなかにあります。ミルの代表作である『経済学原理』は、名著と言われていますが、「ハテナ」には独創性がなく例えばH.ソーントンの文章を殆どそのまま借りて長々と引用してあったりして、今一感心しないのですが、初期の著作のなかには鋭い分析が見られます。以下の文は、花見酒とそっくりですね。
人びとの懐中からより多くのものを取り去って諸君自身の快楽にそれを費やせば費やすほど、人びとはより豊かになるのだということを証明するようなもの、つまり、ある店から貨幣を盗み出す者は、その貨幣の全てを再び同一の店で支出するかぎり、自分の盗み取った商人にとっての恩人なのであり、その同一の行為が充分にしばしば繰り返されれば、その商人の財産を作るであろう、ということを証明するようなものだったのである。
この引用文の論題は、「生産に及ぼす消費の影響について」です。浮かれた消費を問題にする限り、「花見酒の経済」のイギリス版といってもよいでしょう。