アダム・スミスの唱えた自然価格という考えは、部分均衡に立つものでありました。売り手と買い手との間の競争の結果、市場価格が自然価格に引き寄せられるというもので、自然価格は一見均衡価格に似てはいますが、あくまでそれは一つの商品での「部分均衡」の領域に止まりました。これをすべての市場で同時に均衡が成立する可能性を証明したのがレオン・ワルラス(1834-1910)でした。ワルラスの出現以来「一般均衡」論として経済学は画期的に発展していくことになるのです。ワルラスの業績は、すべての市場で同時に均衡が成立する可能性を証明したことにあります。たとえばワルラスはオークション(競売)の考え方を取ります。あらゆる商品の価格が「競売人」(auctioner)によってセリに掛けられるようにすべての売りと買いの希望価格を比較して、すべての市場がマッチするかどうかを見、適合しなければ、すべての売りと買いをマッチさせそうな別の価格を宣言するのです。一般均衡というと、あたかも自然に価格が整合的に決まる静学体系のように思われるでしょうが、そこには均衡解を巡って激しいせめぎあいが見られ、適合点に収斂する連続的な模索の過程が行われるのです。ワルラシアンはこれを「タトヌマン」模索と呼んでいます。
(参考:ロバート・ハイルブローナー『私は、経済学をどう読んできたか』より)
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