織田信長論が盛んですが、「ハテナ」には次の言葉が脳裏に残っています。それは遠藤周作の小説『反逆』のなかにあります。もちろん小説家周作のイメージではありますが、その箇所を引用しますと次のとおりです。
村重反乱の知らせに、秀吉は何くわぬ顔をして座を立った。そのため彼の心中に気づく者はない。
(村重、早まてり)
彼は、あの男は生きる智慧(ちえ)が不足している。耐えることを知らない、と心のなかで呟いた。
この二十五年間、秀吉は信長の天才に舌をまきながらも、あまりに性急な革新政治と苛酷な敵への扱いかた、家臣の使いかたをつぶさに見つづけてきた。見つづけて安国寺恵瓊(えけい)の言った「いずれ高転びして、仰向けに倒れる」とおなじ気持を抱くに至っている。
(内府さまの敵は外にはない。お心のなかにある)
それが秀吉の結論だった。