どうしても福祉縮減に至らざるを得ない要因が発生しはじめ、これが福祉国家の生成を困難にしております。それは次のように主として三つの要因が現れ始めたからでした。
@新自由主義の台頭
これは1980年代のレーガノミックスやサッチャリズムによって相対的に「小さな政府」指向が強まっていったからです。それまでのケインズ主義的な需要喚起策がサプライサイド重視の経済学に代表される新自由主義理論によって厳しく批判されるようになりました。つまり国家を通した需要創出効果への信頼が揺らいできたことにあります。当時の日本は福祉の肥大を「英国病」と呼んで批判したのは記憶に新しいところです。これを打開すべく、保守党のサッチャー政権は、労働の規律強化や所有意欲の奨励等によって徹底して労働組合と労働党の孤立を図り、その結果イギリスの左派勢力は福祉国家解体を防ぐことができなくなったのです。
Aグローバル化の影響
福祉国家を進めるとどうしても労働コストが高くつきます。高い労働コストを嫌う資本は安い労働力を求めて国外へ逃避していきます。それを回避するため各国はできるだけ労働コストを引き下げようとするので寛大な福祉国家政策は見直しされざるをえなくなったのです。新川敏光氏はこの現象を、福祉国家の縮減を目指す「最底辺への競争」(a race to the bottom)と名付けています。
Bすすむ高齢化
福祉国家の危機を最も理由づける原因として今日高齢化が挙げられるのは周知の事実です。特に下表の通り、日本の高齢化が最も顕著に示されています。
各国の高齢化率
特に日本は、高齢化の進展が著しく、1990年代に入っての福祉縮減の一番大きな要因はこの高齢化が推進力を果たすようになりました。
(以上は、いずれも新川敏光氏の『日本型福祉レジュームの発展と変容』を参考としました。)