大公 言ってみるがいい、デズデモウナ。
デズデモウナ わたしがムーアさまを恋してともに暮らしたく思いましたことは、
わたしがあえて世の常の掟を破って運命にさからったことから、
世間に知れわたることでございましょう。それは
夫の職業(つとめ)をも承知の上のことでございます。
わたしはオセロウの姿をあの方の心の中に見ました。
そしてあの方の名誉と勇気に
わたしの魂と運命をささげました。・・・
大公 よろしい。
・・・すぐれた者にはおのずから喜ばしい美が備わる、と言うから
あなたの婿(むこ)は、色は黒くとも、非常に美しい男だよ。
イアーゴウ ・・・おれはムーアが憎い。
・・・ムーアはおおまかな、開けっぴろげ性質(たち)で
見かけだけで人間が正直だなどと思いこんでしまう。
鼻っさきをつかんでやすやすと引きまわしてやれる、
驢馬(ろば)のように。
・・・
(『
オセロウ』 岩波文庫)
上は、オセロウを愛するデズデモウナと、オセロウを憎む奸臣(オセロウの旗手)イアーゴウのセリフの抜粋です。1604年に、最初に上演されたといわれる『オセロウ』の評判については、幸い、福田恆存訳の巻末に評論家たちの批判集が掲載されているので参考になります*。
*『オセロウ』 福田恆存訳 シェイクスピア全集11.
これらの評論家たちはどう見ているのでしょうか。次夜で明らかにしていきましょう。