「歴史は、現在と過去との対話である」と喝破したのはE.H.カーです。もう随分前(学生のとき)に読んだ古典中の古典である、岩波新書、清水幾太郎訳の『歴史とは何か』の内容は概ね忘れてしまいましたが、不思議に以下のような事例(つまらぬところとお思いでしょうが)だけは覚えております。カーは言います。
ジョーンズがあるパーティでいつもの分量を越えてアルコールを飲んでの帰途、ブレーキがいかれかかった自動車に乗り、見透しが全く利かぬブラインド・コーナーで、その角の店で煙草を買おうとして道路を横断していたロビンソンを轢き倒して殺してしまいました。混乱が片づいてから、私たちはー例えば、警察署ーに集まって、この事件の原因の調査をすることになりました。これは運転手が半ば酩酊状態にあったせいでしょうかーこの場合は、刑事事件になるでしょう。それとも、いかれたブレーキのせいでしょうかーこの場合は、つい一週間前にオーバーホールした修理屋に何か言うべきでしょう。それとも、ブラインド・コーナーのせいでしょうかーこの場合は、道路局の注意を喚起すべきでしょう。
そこへ、ある世に知られた紳士が飛び込んできて次のように主張します。いささか長い議論になり、今夜はもう眠たいでしょうから、次の夜話で種明かしをしましょう。
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