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前夜からの続き

第131夜から第135夜まで

第131夜 - 大日本帝国と大英帝国

植民地支配の華やかだったころ、そして第二次世界大戦を迎えた日本は、しきりに「」日本帝国と呼ぶことが多くなりました。この「」は朝鮮、台湾、樺太、関東州を含めた拡大日本帝国のことです。では、大英帝国の「」はどうでしょうか。英国での「」は拡大帝国の意味には使われていないのです。この場合の英語名は、ブリティッシュ・エンパイアであります。グレイト・ブリティッシュ・エンパイアとはなっておりません。

でも、イギリスのことをよくグレイト・ブリテンと呼ばれているではないか、そう、その場合は、イギリス本島とアイルランド島およびそれらの周辺の小島をブリティッシュ諸島と呼び、その中で一番大きい島がイギリス本島であるから、その島をグレイト・ブリテンと呼んだわけです。この式でいきますと、日本での大日本は本州のことになりますね。

イギリス人には英帝国はあるが大英帝国はない、とおっしゃるのが、森嶋通夫氏でした。氏は世界で活躍された日本の誇る経済学者でノーベル賞候補にも挙げられる方でしたが、ロンドン大学名誉教授のまま惜しくも2004年7月13日に亡くなられました。

(参考:森嶋通夫『終わりよければすべてよしーある人生の記録』)

第132夜 - 裸の王様?

ビジネスにたづさわった人なら一度はあこがれるハーバード・ビジネススクール。ここで教える錚々たる教授たちのアドヴァイスが一冊の本に取り纏められました。『ハーバードからの贈り物』。原題は、Remember Who You Are (2004) です。このなかにスティーヴン・P・カウフマンという人が「まずい食事と真実」と題して次のようなことを言っています。すこし長い引用ですが最後のところが面白い!

 社員から役員になるというのは、単なる身分の変化ではない。周りから受ける待遇も、日々の生活の根本も大きく変わるのだ。平社員のときは上下関係のなかで仕事をし、飛行機に乗ればまずい機内食に甘んじ、四六時中上司のご機嫌を伺うのがいわば当たり前になっている。ところが上級管理職、なかんずく事業部や企業のトップになったとたん、世界は一変する。会社ではあなたを中心に組織ができあがり、事務スタッフや社用車、そして飛行機のファーストクラスといった豪華な特権が与えられる。コンピュータの不具合を自分で直すといった面倒な作業をする必要は一切ない。あなたの周りには、日常業務がスムーズに運ぶように手を尽くしてくれる人たちがずらりと控えているのだ。
 
変化は物質的なことにとどまらない。周囲の人びとのあなたに対する認識も扱い方も、以前とは様変わりする。社員はあなたの質問を命令と解釈し、あなたが何か意見を言えば反発や質問などせず、必ずといっていいほど「ああ、それはいい考えですね」と相づちを打つ。部下はあなたの示す反応やコメントに怯え、全力をあげて悪い知らせをあなたの耳に入れないようにする。私がのちにCEOになったとき、友人はこうみごとに言ってのけたものだ。「スティーヴ、もう二度と手にいれられないものが二つあるよ−まずい食事と真実だ」

上文で赤字で示したのは「ハテナ博士」です。

(参考: デイジー・ウェイドマン『ハーバードからの贈り物』より)

第133夜 - 企業の良心

企業が成長しその規模が大きくなると、いままでの古典的な型の競争がもはや通用しなくなります。自由に行動(悪く言えば露骨な行動)して利益を挙げても一般大衆や、労働者、独占禁止法、立法・行政権力とのあいだに面倒を引き起こすようになるからです。このような社会動向に反抗して企業はなお私利追求の正当性を主張するかもしれません。この関係をどうみるかが、そしてどう調和させていくかが重要でしょう。

社会が企業に要求する社会的責任の内容も時代とともに変わっていくとき、企業は社会との摩擦を避け前もって変化を察知し、率先して自分の企業に反映させるべきでしょう。このような企業の姿勢をバーリは「企業良心」(corporate conscience)と呼んでいます。

(現代経営学全集3 経営理念より)

第134夜 - ヴェンチャーはアドヴェンチャーにあらず

企業は戦場に例えられることがあります。戦場では当然生と死が向き合いますね。企業もまた、いかにして勝ち、失い、生き残るか、がきびしい試練の場となります。それがヴェンチャー企業ならなおさらのことと考えられています。だが、ちょっと待って!ヴェンチャー企業も他の企業がやっていることと変わりません。確かに大抵の企業よりは不確実な世界のなかにいることは間違いないでしょう。それだからこそ、ベンチャー企業をより注意深くさせているのです。こうしてPaul Salman と Thomasu Friedman はその著、Life & Death of The Corporate Battlefield のなかで次のようなセリフを吐くのです。

It's venture capital, remember: not adventure.

第135夜 - 黄昏の一杯

もうずいぶん前の本からの引用で申し訳ないのですけれど、開高健と佐治敬三さんとで、大阪の商法と東京のそれを比べた対談があります。実に上手く比べられておりますのでご紹介しましょう。

開高 : 儲けというものの観念が、土台東西はくい違っているんじゃないでしょうか。

佐治 : そや。大阪はね、儲かるか儲からんかは自分の銭やと思うわけや。ところが、東京は会社の銭やと思うとんや。・・・・・・

佐治 : 東京は会社ちゅうのが何か別にあるんやな。・・・・・・東京は細かく儲けるのやと思とる。片一方は逆に使うもんやと思とるわけやね。結果的にみると、東京は売り上げから経費を引いたのが儲けで、大阪は売り上げから儲けを引いて残ったのが費用やということになりますかな。

開高 : なるほど。

いや、この引用はつまみ食いで申し訳なし。

(開高健 『黄昏の一杯』 潮文庫のなかの 佐治敬三 随時小酌 より)

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