フランスから出来した経済学説で最も古典的なのは、重農主義の経済学であります。読んで字のごとく農業を重視し、農業から作られるものが唯一の価値(富)であるという学説です。これに対して同じフランス人でも反対者がいました。ヴォルテール(1694〜1774)がその人で次のようないかにもフランス式のウィットに富んだエピソードがあります。敢えて古い言葉で言い表してみましょう。
徴税吏は予に対し、土地から揚がる小麦と大豆に対しその価格の半分を租税として収めよ、と言いおった。予は小麦と大豆それに貨幣も持っておらぬによって牢獄に入れられた。骨と皮ばかりになって牢獄から出ると、途上肥満した紳士に逢った。予は昔なじみのその紳士に尋ねた。君は収入の半分を国家に租税として払っているや否や?と。紳士は呵呵大笑して曰く、予の財産は政府証券や手形であって土地ではない、土地は唯一の純収入を発生すべき根源であるから租税がかかるのよ。我輩の財産たる証券や手形は交易の手段たるだけであるからこれに課税さるべきでない。貴公は土地の生産物である小麦や大豆を収入としているから税金を取られるのよ!
これはもの凄い皮肉といわざるを得ません。なぜなら、重農学派の根本的な主張、つまり土地の純収入(product net)と単一税(impot unique)を嘲笑しているからです。確かに重農学派は土地(自然)を重視し不労所得を軽視している点で今日にも通ずる確かな貢献をしましたが、土地のみが価値を生むとしたことから上のような逆説、すなわち価値を生むものに税金がかかる、価値を生まないから税金は生じない、という皮肉をヴォルテールによって投げ返されたのでした。
どこでもいつでも、課税のがれの言い訳は大なり小なりあるもんですね。
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