思想を論ずるうえで、自由主義という言葉は欠かせない哲学です。けれども現代の思潮は、一口に自由主義といって済まされない複雑な社会となっています。これらを大きく三つの流れに整理してみましょう。
@ リバータリアニズム・・・・・・これは自由至上主義です。または市場経済中心主義、最小国家論とも言われます。そこでは何よりも個人の自由が発揮できる機会を重視するのです。この考えの持ち主は、ハイエクやノージックに代表されます。
A コミュニタリアニズム・・・・・・@に対して、個人は共同社会を常に背負っているのであり、その中での自由や権利を追求すべきであると云う考えです。共同社会を重視する思想で、それを他民族国家に当てはめますといわゆる共通の善を求めることが困難となり、文化的多元主義を生み出します。この代表的な論者は、サンデルやテイラーなどです。
B 修正されたリベラリズム・・・・・・画期的な思想上の問題提起はロールズの『正義論』でありましたが、前夜(189夜)でも触れましたように、さまざまな議論が闘わされて、今日のいわゆる自由主義は”修正された”自由主義となりました。リベラリズムが持っている価値の相対化、主観主義を修正しようとする動きです。このなかには、アマルティア・センにおける潜在能力の重視や、ギデンズのいわゆる「第三の道」などが入ります。
上は前夜での佐伯氏による、きわめて大まかな類型化ですが、この中には何故かいわゆるネオコンと呼ばれる思想が入っていませんね。ネオコンNEOCON,正式にはNeoconservatismです。著者はこれをはずして書名のような「倫理としてのナショナリズム」にしたかったのかもしれません。それはさておき、この三つの社会哲学の思潮を眺めながら現代のさまざまな動きを理解することが可能になり、総じてわたくしたちは”アフター・リベラリズム”として呼んで社会思想の理解の基礎を学ぶことが可能になるのではないか、と思われます。
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