経済学を、「個人を純粋に利己的で利欲的な動物と見、国家をたんにそういった動物の集塊と見なした」陰鬱な科学から解放したのは、アルフレッド・マーシャルでありました。彼は『経済学原理』を送り出し新しい経済学の到来を告げた人でした。ケインズはその師であるマーシャルを古典派経済学の最後の人と批判的に位置づけながらも、彼を次のように称えています。
「マーシャルは古来最初にして最大の、生粋な経済学者であり、初めてこの学科を、それ自身の基礎の上に立ち、科学的正確さにかけた物理学ないし生物学にも劣らぬ高い水準をもった別個の科学として樹立するために、その生涯を捧げた人であった」。
上で経済学を陰鬱な科学と表したのはカーライル(Thomas Carlyle 1795-188)で、当時マルサスの人口論が話題になった頃のことで、こんな経済学を Dismal Science と呼んだのでした。
また、マーシャルは80歳の誕生日(1922年8月)を迎えてからまもなく、『貨幣、信用および商業』を完成させました。社会進歩の可能性をあくまで追求し、1924年7月13日、82歳の誕生日を迎える2週間前に亡くなりました。文字通り死ぬまで研究に没入した学者でありました。
|