友の会ホームページに「低山を歩く会」という楽しいコンテンツがあります。これとは全く関係はないのですが、ハイキングに行くときの経済学をパロディ風に考えてみましょう。
さて、明日(仮定の話)は楽しみにしていた低山のハイキングです。それに備えてルックサックの中にどんな品物を用意すれば良いのでしょうか。大抵は、スーパーで好みの品や必要な携帯品を2〜3時間もあれば整えることでしょう。ペットボトルは水にしようかお茶にしようか。雨に備えて簡単な合羽を持っていこう。寒さを癒すため或いは頂上で祝杯を挙げるにはウィスキーがいいかそれとも日本酒にしようか。お小遣いも限られているので安い方にしよう、とか・・・。
これを経済学ではどう取り扱うのでしょうか。まず二つの出発点を想定します。一つはお小遣いの限度があるということで、これを予算制約条件といいます。もう一つはその予算のなかで最も適った品物を選ぶということで、これを効用を最大化するといいます。これらを合わせて、予算制約下の効用最大化問題としてルックサックの中身を解く、ということになりましょう。ところが中に収める品物が2,3種類なら簡単ですが、品物の数が増えますと、案外厄介な計算を要します。人間の頭脳はこの計算を一瞬に判断して行動する素晴らしい機能をもっております。ただその品物選びが最高の満足を得られるかとうか(例えばうっかり忘れてしまった)、また同行する仲間のリックサックはそれぞれ中身が違うでしょう(人間の効用は主観的です)。経済学ではあなたの効用を比較することから始めます。例えば、品物購入予算を1万円としましょう(チョット贅沢?)。そして上の例のペットボトルを天然水とお茶のどちらを好むか比較するわけです。もちろんこの限りでは、予算の範囲内にありますね。ところが段々品数が増えていきますと計算が厄介になってきます。水とお茶のほかにコーヒーもどうか、と3品の比較に拡張しても計算はそれほど難しくない。考え方としては水とお茶の効用を比較し次いで水とコーヒの効用を比較しやはり水にしよう、と効用を選択すれば、水に決まります。ところが水とお茶、お茶とコーヒー、コーヒーと水の三通りの比較をしなくてはなりません。水よりはお茶、お茶よりはコーヒー、コーヒーよりは水と選択が異なれば堂々巡りになってしまいますね。いずれも安い品ですから、予算1万円のなかで問題はありませんが、品物がだんだん増えていきますと。お小遣いのほうも考えねばなりませんね。
人間の頭脳はこれらを苦もなく一瞬に判断しますね。そうでなければ低山歩きに参加できない!ところが経済学的にこの効用の比較をコンピュータで計算させますと、途中をはぶき、結果だけでは凡そ次のようになってしまいます。品物の数をnとしますと、
品物の数
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計算時間
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n=10 のとき
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0.001秒
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n=20 のとき
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1.0秒
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n=30 のとき
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17.9分
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n=40 のとき
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12.7日
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n=50 のとき
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35.7年
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となります。低山歩きに50もの品物を用意することはまずないでしょうが、仮にそうしますと、何と35年以上もかかる!普通は多くても30品目位でしょうから、18分弱とまあリーズナブルでしょう。
このコンピュータによる計算問題を有用と見るかどうかは人によって異なるでしょうが、以前ではとても解けなかった問題が段々と現実してきたことは、将棋や碁のソフトと同じように随分と進歩したとは言えるでしょう。経済学ではこのような計算量の理論を、ナップザック問題と呼んでいます。
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