前夜からの続き

第36夜から第40夜まで

第36夜 - Too big to fail

金融バブルの崩壊寸前までは、大企業への銀行の貸付が巨額過ぎると企業は却って潰れないといささか皮肉をこめて、大きすぎてつぶれない”Too big to fail” と呼ばれていまいした。たとえば100万円の借入先に対しては銀行が支配できるが、1,000億円の借入先は逆に銀行を支配すると皮肉られたものです。このことを野次った面白い逸話がありますので少し古いですが紹介しましょう。

・・・・・・と、メキシコの蔵相がやおら口をひらいた。「わたしの国では、よくこう言われている。バンク・オブ・アメリカ(BOA)はメキシコを消滅させることはできない。しかしメキシコはBOAを消すことができる、とね。真実のほどを見せてやる時が間もなく来るのだ。さあ、乾杯をしよう」

人事ではありませんよね。護送船団方式で固く守られてきた日本の銀行も不良債権で頭を抱えていますもね。大企業も潰れる、銀行神話も崩壊する時代となってしまった本当の原因は?そしてそのようにさせた責任はどこにあるのでしょう?

ポール・アードマン『マネー・パニック』より)

第37夜 -サヨナラダケガ人生ダ

すこし経済の話ばかりで飽きられないために、文学のお話を閑話休題として。

干武陵という人の漢詩に「勧酒」というのがあります。この詩自体の評価は余り知られていませんが、日本語訳の素晴らしさで一躍有名になりました。そこで原文と漢訳とあまりにも知られた名訳を掲げておきます。美酒をたしなみながらゆっくり味わってください。

君ニ勧ム金屈巵(きんくっし 満酌辞スルベカラズ
花発(ヒライテ風雨多ク  人生別離に定(
君に勧める黄金の盃
なみなみと酌むから
辞退してはいけない
花がひらけば風雨の障り多く
人の世は別離に満ちているものだ
コノサカズキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトエモアルゾ
サヨナラだけが人生ダ                (井伏鱒二)

第38夜 - 馬車用むちの市場

ハテナ博士が前々から気にかかっていた言葉がやっと見つかりました。いくら名職人が丹精を込めて立派な作品を作っても売れなければそれまで、という例に馬車用の鞭が挙げられていた、はて?それはどこに書いてあったかな〜。ドラッカーの本の中にありました。

”イノベーションに優れた企業は、イノベーションのための活動を厳しく管理する。創造性などという言葉を口にすることはけっしてない。創造性とは、イノベーションを行わない者が使う、中身のない言葉である。イノベーションに優れた企業は、仕事自己規律について言う。 それらの企業は「このプロジェクトを次に見直すべき段階はどこか。そのときまでに、いかなる成果を期待すべきか。そしてそれはいつか」と問う。そしてもし、あるアイデアが続けて2度、3度と目標を達成できない場合には、「努力を倍加しよう」などとは言わずに、「何か別なものを手がけるべきではないか」と問う。                                さらに、それらの企業は、古いもの、陳腐化したもの、もはや生産的でないものを組織的に廃棄する仕組をつくっている。「品質さえよければ馬車用むちの市場はいつでもあるはずだ」などとはけっして考えない。人間のつくったものはみな、遅かれ早かれ、通常は早いうちに、陳腐化してしまうことを知っている。そして競争相手によって陳腐化させられるのを待たずに、自ら陳腐化させ廃棄してしまうことを選ぶ。”

(P.F.ドラッカー『マネジメント・フロンティア 明日の行動指針より)

第39夜 -エコノミック・アニマルとはどんな動物?

日本人がむきになって仕事仕事!儲け儲け!と働きまわっている姿を、外国の人がエコノミック・アニマルだと評したことからこの言葉が高度成長時代の流行言葉となってしまいました。ところが村松増美先生(同時翻訳の達人)は、それは違うんだとおっしゃります。この言葉を最初に用いたのは1965年のアルジェ会議で発言したパキスタンの外相Bhutto氏で決して侮蔑的な意味で使ったのではない、と述べられています。その含意は、むしろ政治的な志向をするpolitical animalではない、ということでした。またどちらかといえば文学的な表現ですらあったのです。侮蔑するというならbeast(けだもの)と言ったほうが適切だと。それが日本では目もくれずにただ働く日本のビジネスマンに対してeconomic animal変形されて使われてしまったのです。ですから余り自虐的にならないほうが良い、海外にもけっこうeconomic animalはおりますよ、とハテナ博士は思うんですが。

第40夜 - この社是がステキ!

現地に行ってこの目で確かめたいような社是があります。

コネティカット州ノーウォークで酪農製品を販売する同社の総帥、ステュー・レナードは、ずっと以前から自分の経営理念を店の壁に掲げていた。いわく、

・社是第1条―顧客はつねに正しい                                                             ・社是第2条―たとえ顧客が間違っていようとも、社是第1条を見よ

(トム・ピータース『経営革命』上卷のなかに出ていました)

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