前夜からの続き

第71夜から第75夜まで

第71夜 - エコノミストはジャーナリスト?

英語でエコノミスト(economist)という用い方は、学者だけでなく経済の専門知識を持つ人全てを指しています。ところが日本では経済学者とエコノミストとは違って用いられているようです。経済学者というと何か大学でアカデミックな研究をしているイメージ、逆にエコノミストは学者ではなく、新聞やテレビで論評ばかり述べている人々のことを指しているようです。本当のエコノミストは、学者も質の高い評論家も含まれる筈なのに、日本でのエコノミストは単なるジャーナリストに過ぎない(もちろん質の高い一流のジャーナリストは経済への造詣が深いのですが)のではないかと、「ハテナ博士」は思ってしまいます。この人本当に経済の理論知っているの?と感じられるような人が堂々とエコノミストを自称している!・・・・・・と思うことがしばしば見聞されるのは、ジャーナリストいやエコノミスト先生に失礼かしら?

第72夜 - バブルの語源は?

1720年に起きたイギリス南海泡沫会社事件に由来しています。South Sea Bubble Company の Bubble から来ているのです。因みに南海(South Sea)というのは、当時の太平洋を指しています。南海会社のような泡沫会社の数々が架空の利益を挙げた果てに株価の暴落を生じた事件なのです。だが、経済学物語としてはその少し前に起きた、ジョン・ローのシステムが引き起こしたフランスのバブルが最も有名でかつ重要な教訓を今日に残しています。ではこの悪名高いローという人はどんな人でどんな事をやったのでしょうか。次夜から連続してお話いたしましょう。

第73夜 - ジョン・ローのシステム

舞台は英仏覇権闘争。ジョン・ロー(John Law 1671〜1792年)はそこで壮大な博打を打ちます。ローが考えたシステムは二つ。一つは「一般銀行」、もう一つは「ミシシッピ会社」。銀行は、不換紙幣を発行して納税に使えるようにしようとします。ミシシッピ会社は、当時仏領だった北米大陸ルイジアナのミシシッピ川流域での天然資源開発を請け負う会社。この開発会社は計画すらないペイパーカンパニーでありましたが、ローはこの会社の株価を高値に操作するためその株を銀行に買わせる。高値になった株式を担保にして銀行はさらに不換紙幣を発行する。この不換紙幣でもって更に株価を釣り上げるという操作を行います。そして銀行は次々に東インド会社やそのほかの国営企業をすべて傘下に収め、遂には王立銀行にまでなる。そして紙幣の流通を一手に握る。ところがルイジアナ開発を調査してみると、何の成果も出しておらず、結局失敗してしまうのでした。

このように悪名高いローのシステムではありましたが、今日でもなおジョン・ローが歴史に名を留めその研究が盛んなのは、ローが始めて紙のお札(紙幣)を発行し、不換紙幣による信用の操作を試みたということに求められるのです。その点では正に金融の革新であったからなのでした。

第74夜 -許せないカンティロン

もう一人の有名なリチャード・カンティロン(Richard Cantillon ?〜1735?年)は、『商業試論』という著書が今日見直されていますが、「ハテナ博士」にはどうも許せない人物に映ります。なぜなら、ローを内心では批判しながらもローと手を結び、ミシシッピ会社の株価暴落の寸前に売り抜け巨万の富を築いたからです。そのためか、カンティロンが引退後暮らしていたロンドンの豪邸が何者かによって放火され本人も殺害されてしまったというわけ。犯人も死因も定かでない(生年月日が?になっているのもどうもウサン臭い)。

「ハテナ博士」が納得できないわけは、次の一説にあるのです。つまり、カンティロンはリスクをよく理解した真のギャンブラーであったというものであります。ローのシステムをもともと無理と見て冷静に切り抜けた点がどうも買われているらしい。後代の経済思想家はこのカンティロンを高く評価して「貨幣数量説」を彼から引き出したりしています。だが、「ハテナ博士」は、カンティロンの著作が例えどんなに先見性に富んだとしても読む気にはなれません。こんなドロン(売り逃げ)をして汚い大金持ちになるカンティロンを持ち上げたのでは却ってローの方がかわいそうじゃ、と、これは「ハテナ博士」の個人的見解です。

(参考:若田部昌澄『経済学者たちの闘い』)

第75夜 - ジョン・ロー

第1話−ペーパーマネーを最初に作った男

ジョン・ローという人は、シュンペーターも言っているとおり「他に類のない存在」として波乱万丈の生活を送りました。「伊達男のロー」として人気が高く洗練された身だしなみのよい男でした。だが、家業が銀行業、金細工業でありながらロンドンの賭博場に入り浸りとなり巨額の負けで土地を抵当に入れる羽目となったほか、女友達を巡って決闘をしあっという間に相手を射殺し何故か殺人犯とされて海外逃亡をします。他方その期間に考えたのがペーパーマネーの導入でありました。そしてまた「土地銀行」の設立を呼びかけるのです。この銀行は、国有地の評価額を限度に証券を発行しようとするものでした。これは、Land-Bank(土地銀行)ではなくSand-Bank(砂洲銀行)ではないかとやじられながら。結局イギリスではこの「信用貨幣」(Paper-Credit)は否決され、ローは失望して再び大陸へ戻り、ヨーロッパの主要都市で賭博業を再開し大金持ちになります。ここまでがローを巡る第1幕。さてその続きは次夜へ。

第76夜から第80夜までへ

経済学物語へ戻る