前夜の議論を例えば金融取引に適用するといたしましょう。
いま、個々の借り手が持つ投資プロジェクト、例えばA, B, C・・・があるとしましよう。Aから順に有望なプロジェクトに並べてみます。この場合、有望な投資プロジェクトAをもつ借り手とより劣った投資プロジェクトB,C・・・を持つ借り手を、貸し手の方で見分けられるとは限りません(それが出来れば不良債権があんなに発生することはありませんよね)。そのため貸し手がリスクををカバーするために約定平均金利を高めに設定するといたしましょう。そうすれば有望な投資プロジェクトをもつ優良企業は、そんな高い金利では借りませんといい退出していきます。貸し手は残ったB,C・・・のリスクを考えさらに高めに金利を設定します。今度は第二に有望な企業Bはその金利ではいやだといって退出していきます。こうして次々と有望安全な借り手が消えていくという現象を逆選択といいます。
今度は一つの企業(借り手)が複数の投資プロジェクトA, Bをもつ場合を考えてみましょう。Aの方がBよりも安全な投資、逆にBはAよりハイリスク・ハイリターンであるといたしましょう。貸し手は安全な投資には低い金利を、よりリスクの高い投資には高い金利を設定するのが合理的な行動でしょう。そうすると借り手の企業はより安全なAプロジェクトを貸し手に提示して安い金利の提供を受け、その資金をハイリスク・ハイリターンのプロジェクトBに回すかもしれませんね。このような借り手はモラル・ハザード的な行動をとったといえましょう。
さて、貸し手はこれらの企業行動に対してどのように手を打てばよいのでしょうか。次夜でそれを解明いたしましょう。
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