経済思想を考えるうえで、「ハテナ博士」はついついイギリスという国を中心に見る癖があります。といってもイギリスを訪ねたことはありませんが。イギリスという国、イギリス的な考え方、そしてその長く続いた伝統が好きなのです。ゲルマン的であるよりはアングロサクソン的なものの見方に同感を覚えます。何故なのでしょうか。自分でもよく説明ができませんが、一つの好きな理由を、例えば、カズオ・イシグロ*氏の『日の名残』という小説の中に見つけることができます。この本は伝統的なイギリス貴族に仕える執事の回想で語り継がれています。同名で映画にもなりました。アンソニー・ホプキンスの演ずる執事役がぴったりの渋い映画でしたが、あまりにも淡々としていて物足りない向きもあったかと思います。それはさておき、その小説のなかで主人のダーリントン卿が彼の雇った執事スティーブンスに次のように語り掛けるシーンがあります。
「何かが時代遅れになっても、この国では気づくのが遅すぎる。ほかの偉大な国々を見てみるといい。新しい時代の挑戦を受けて立つには、古い方法をーたとえ、どんなに愛されてきた方法でもだー投げ捨てねばならん。ほかの国はそれをよく知っている。だが、イギリスだけが違う・・・・・・」
*カズオ・イシグロ氏は日本生まれですが、5歳のときに家族と共に渡英、イギリスと日本の二つの文化を背景にして作家として英国最高のブッカー賞をこの『日の名残』で受けました。
そういえば舞台は英国ながらどこか日本的な叙情の流れる美しい小説です。
さて、イギリスの何が他の国と違うのでしょうか。伝統の力と言ってしまえばそれまでです。慣習を重んずる国民性、新しいものに直ちには飛びつかない落ち着き、ジェントルマンたる品格、そう、この本で執事の条件はと問われてスティーブンスは「品格です」と答えるシーンがありました。総じて「ハテナ博士」にこの英国の国民性を、「持続可能性」(sustainable)史観に求めることができると考えています。
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