前夜からの続き

第416夜から第420夜まで

第416夜 - 石鹸を売る

1970年代になって個人の借り入れ感覚がもっとも変化したといえるのではないでしょうか。銀行の方でもとりわけヨーロッパの銀行は、これまでは貸出しをあからさまに奨励するのを差し控えてきました。ところがアメリカの銀行は対照的に対個人への貸出しを積極的に進めてきました。ショーウィンドーにローンの広告を出すようなことは今までになかったことでした。この傾向はヨーロッパの銀行にも波及し、サンプソンに言わせれば、「石鹸を売るのと同じようにおおっぴらにローンを販売するようになった」のです。こうして借入金に対する道徳的・社会的な抵抗感は、鳴りをひそめてしまいました。こうした借入金に対する1930年代の慎重さは、1980年代には臆病とされるに至ってしまったのです。彼はまた次のようにも言っています。

今日ではグローバルなコンピュータ・ネットワークによって、クレジット・カードは何百万人もの顧客と世界中の商店やホテルやサービス機関を結んでいる。これはまさに金が魔法の杖に乗って移動しているさまをすべてそのまま映し出しているといってもよい。「(もともとは査証を意味する)ヴィザ」とか「(接近可能を意味する)アクセス」などの人を誘惑するような名前からは、眉をひそめて「貸付はおことわりします」という、あの昔の銀行マネジャーの顔などとうてい浮かんでこない。・・・・・・

(参照: サンプソン 同上書 p.275-278)

第417夜 - 貧困と輸送手段

以前から「ハテナ」には、飽食の国と飢餓の国とのアンバランスを調和できないものか、と思っていることがあります。例えば東京での毎日の食材、コンビニやレストラン、ホテル等々の売れ残りはどうするのか?結局は膨大な量を捨ててしまうのでしょう。なんともったいない!その一方で毎日飢餓で死んでいく難民も多い!この余った食材を難民に与えることはどうして出来ないのでしょうか。経済学の答えは簡単。遠くへ運ぶ輸送コストが高くついて採算がとれない、そんなこと簡単な計算でしょう、と。しかし、同じような発想を実はサンプソンがしているのに出会いました。貧困が今日の規模にまでなったために、最低限甘受できる生活水準ですら達成できないのは経済学の誤りだとして、彼はこう書いています。

輸送手段の進歩を考えれば、より豊かな国々の余剰品をより貧しい国々の絶望的なまでのニーズに結びつけることができないというのは、なおさらひどいだれにもわかる失敗だということになる。巨大な貨物航空機を使えば、食材をアフリカの遠く離れた地域へと非常に素早く送れるという事実はだれにもわかり切ったことである。だからこれを必要としている人々に届けるのは政治的な問題であることが、ますます寒々と、そして腹だたしいほどに浮かび上がってくるのだ。

(サンプソン 同上書 p.408)

第418夜 - 食材よりも武器?

前夜と対照的な事例は、武器でありましょう。商品を簡単に「移動できる」のは武器なのです。最も豊かな国々が喜んで売ろうとし、他方貧しい国々が喜んで買おうとするのが武器なのです。武器の流動性は、食料の非流動性とまったく対照的であります。1980年の第三世界に関する報告書、すなわち『ブラント報告』には、「超最新式の装置と技術のなかで、豊かな国から貧しい国へ最もダイナミックで急速に移転したものが、死の機械だったということは、恐ろしい皮肉だ」とサンプソンは引用しております。

(サンプソン 同上書 p.409)

第419夜 - 飢えている者には魚はやるな・・・?

開発経済を考える場合に重要な点は、次の東洋の国々の諺です。

 「飢えている者には魚はやるな、やるなら釣りざおを」

これは次のことを意味するものです。貧しい国々があるとしても、直接何かを持っていってやるのではなく、その国民に自らの資源を自らの手でどのように利用したらよいか教えるようにすべきだというのです。最近ではこのような方向を目指しているのがNPOやNGOなどにみられるやり方でしょう。最新式の給水施設を急いでお金を掛けて建設するよりも井戸掘りのやり方を伝えるといった事例に変りつつあるのもこの諺に近い行いではないか、と「ハテナ」は考えております。

(参考: この諺はサンプソン同上書より)

第420夜 - 宗教の言葉がお金の言葉へ

銀行が、宗教上の秘密や告白の擁護者として「裸のまま」みつめるようになるにつれ、宗教に関係ある古い言葉は、お金の言葉に変質させられてしまいます。例えば、贖罪(redemption: キリストによる罪のあがない)とは、政府の国債を将来返済するという意味、信条(creed)はクレジットに転じます。また奇跡とは高度経済成長、罪を許すこと(forgiveness)は負債の免除を意味するなどなど、美徳から悪徳(?)に変わってしまっています。このように銀行家やエコノミストはあたかも伝道師の役割を引き受けると述べているのは、『ザ・マネー』で有名なアンソニー・サンプソンでした。

(参考: アンソニー・サンプソン 同上書)

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