前夜からの続き
その4
かくして悪徳は巧智を育み 時と働きに結びつき、 結構な生活の事々物々 そのまことの快楽、愉悦、安易など いよいよ高く引き上げるー 貧民どもさえ昔の金持及ばぬ生活、 それ以上何不足ないというほどだ。
その5
さて輝かしい蜂の巣に注意あれ、そして 正直と商売の一致するさま御覧じろ。 芝居はお仕舞い、まるで火の消えたよう。 そして様子はがらりと変る。 年々歳々莫大な金を落とした 客の足絶えただけではない。 それで衣食した多くの民衆もまた 仕方がないから同一行動。 商売 がえしたくもままにはならぬ、 何商 ( ドコ ) も動きがとれない超満員。
土地や家屋の値段はさがる。 壮麗眼を奪う宮殿、その壁は、 テーベの劇場同様に、遊び事で建ったのだ、 それが貸家という始末、いままでは 華やかに鎮座ましますお家の神々、 安っぽい戸口の標札が 由緒ある館(やかた)の刻銘わらうのを 見るよりいっそ果てたい焔の中で。 建築業は全く廃滅した。 職人は仕事がない。 名技を謳われる意匠書きは居ない。石切り、彫刻師は名さえ聞かれない。
・・・ だが今は家具を売り払う― 鐘や太鼓で全印度さがしたその家具を。 食卓の巨費は縮減、 丈夫なお召しは年中着どおし、 軽佻浮華の時代はすぎた。 そして着物も流行も共に長つづきする。 贅沢な絹地にプレイト加工する職人と それにつらなるすべての 下職(シタジョク) 悉く廃業、だが地には平和と豊饒の栄。 諸式は飾らず、値段は安い。 庭師の暴力はなれた自然の恵、 諸果の成長自由に任せる。 珍奇なものは手に入らない、 取寄せる手間賃支払われないため。
さらば不平はやめよ、馬鹿者だけが 偉大な蜂の巣を正直にせんとする。 世界の佳きもの楽しみながら、 武威は輝き、生活は安泰、 その上さしたる悪徳なしということは 脳裏に宿る空しいユートピア。 詐り、驕り、誇り、は矢張りなくてはならぬもの、 そしてその恩沢をばわれらが受ける。 空腹は恐ろしい悪疫だ、ほんとうに、 だが空腹なくして誰が消化し身を養う。 酒のもと葡萄のよくできるの干乾びた、 見窄らいい曲り歪った蔦のお蔭ではないか。 若芽のときは誰も顧みない。だがしかし やがて他の木を窒息させ、幹に匍い上がる。
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