前夜からの続き

第426夜から第430夜まで

第426夜 - 蜂の『寓話』 その4

 その4

 かくして悪徳は巧智を育み
 時と働きに結びつき、
 結構な生活の事々物々
 そのまことの快楽、愉悦、安易など
 いよいよ高く引き上げるー
 貧民どもさえ昔の金持及ばぬ生活、
 それ以上何不足ないというほどだ。

第427夜 - 蜂の『寓話』 その5

 その5

 さて輝かしい蜂の巣に注意あれ、そして
 正直と商売の一致するさま御覧じろ。
 芝居はお仕舞い、まるで火の消えたよう。
 そして様子はがらりと変る。
 年々歳々莫大な金を落とした
 客の足絶えただけではない。
 それで衣食した多くの民衆もまた
 仕方がないから同一行動。
 商売 がえしたくもままにはならぬ、
  何商 ドコ も動きがとれない超満員。

第428夜 - 蜂の『寓話』 その6

その6

 土地や家屋の値段はさがる。
 壮麗眼を奪う宮殿、その壁は、
 テーベの劇場同様に、遊び事で建ったのだ、
 それが貸家という始末、いままでは
 華やかに鎮座ましますお家の神々、
 安っぽい戸口の標札が
 由緒ある館(やかた)の刻銘わらうのを
 見るよりいっそ果てたい焔の中で。
 建築業は全く廃滅した。
 職人は仕事がない。
 名技を謳われる意匠書きは居ない。石切り、彫刻師は名さえ聞かれない。

第429夜 - 蜂の『寓話』 その7

 その7

 ・・・
 だが今は家具を売り払う―
 鐘や太鼓で全印度さがしたその家具を。
 食卓の巨費は縮減、
 丈夫なお召しは年中着どおし、
 軽佻浮華の時代はすぎた。
 そして着物も流行も共に長つづきする。
 贅沢な絹地にプレイト加工する職人と
 それにつらなるすべての 下職シタジョク
 悉く廃業、だが地には平和と豊饒の栄。
 諸式は飾らず、値段は安い。
 庭師の暴力はなれた自然の恵、
 諸果の成長自由に任せる。
 珍奇なものは手に入らない、
 取寄せる手間賃支払われないため。

第430夜 -  蜂の『寓話』 その8

その8 (教訓)

 さらば不平はやめよ、馬鹿者だけが
  偉大な蜂の巣を正直にせんとする。
 世界の佳きもの楽しみながら、
 武威は輝き、生活は安泰、
 その上さしたる悪徳なしということは
 脳裏に宿る空しいユートピア。
 詐り、驕り、誇り、は矢張りなくてはならぬもの、
 そしてその恩沢をばわれらが受ける。
 空腹は恐ろしい悪疫だ、ほんとうに、
 だが空腹なくして誰が消化し身を養う。
 酒のもと葡萄のよくできるの干乾びた、
 見窄らいい曲り歪った蔦のお蔭ではないか。
 若芽のときは誰も顧みない。だがしかし
 やがて他の木を窒息させ、幹に匍い上がる。

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