前夜からの続き

第431夜から第435夜まで

第431夜 - 蜂の『寓話』 その9

 その9―蜂の物語もいよいよこのあたりで終章です。その詩篇の末尾を飾ります。

 ・・・
 かように悪徳にも恩沢がある。
 正義によって裁断し、束縛すれば、
 いな、国民が偉大を望むなら、
 悪徳の国家に必要なること
 空腹の食事におけるが如し。
 徳が高いというだけで国々の暮らしおば
 豪勢にするは無理な話。黄金時代の復活を
 翼う人々は楽園の「正直」のみならず、楽園の
 「樫実カシミ」にも自由の襟度あらま欲し。

 

第432夜 - 犬は飼い主を追っかける

犬は自転車にのった主人の後を追っかけて走ります。するとどうしても下図のような走行曲線になります。この軌跡が曲線を描くのを開発経済の成長になぞらえたのは中兼和津次氏です。また計画経済制における投資の効率性を、下図の曲線から直線に求めたのは、ドッブでした。A(犬)からC(目標)に至る線は、左図では点線ですが、右図では→のついた実践で表わします。このA(犬)からC(目標)への実践経路が、計画経済の指し示す経路なのです。

(参照:経済学88物語(M・H・ドッブ『政治経済学と資本主義』)、中兼和津次『中国経済発展論)

第433夜 - 中国経済はキャッチアップ型工業で説明できるか?

前夜で示されたような犬が主人を追っかける経路、つまり点線で示されるような曲線の軌跡は一般に開発経済論に見られるキャッチアップ型の工業化論です。そして中国経済の発展は市場経済を取り入れることによって成功したとされています。けれども今後の中国経済の発展は、これからはこのようなキャッチアップ型では通らないというのが「ハテナ」の見方であります。その理由は、次の体制から発します。
 公有制と市場経済の共存
この特有なシステムを採る限り市場経済を貫徹することはどうも難しいというのが理由です。
現在の中国経済の発展は、市場経済を導入したことにより大変成功したと言われています。けれどもそれは中国全体の姿を反映したものとはいえません。将来の姿は、中国は、共産主義政治路線のもとに計画経済体制をとるかぎり、独自の路線(前夜での直線の経路)を採る、と思われます。引き続き中国経済論を考えてみましょう。

第434夜 - ニ−ダムの逆説

中国人が火薬・印刷・羅針盤といった優れた発明を行いながら、それらが西欧で発達し、自国で発展しなかったのは、封建的官僚主義が桎梏になった、というのがニーダムの逆説といわれるものです。これに対して中国が市場経済を取り入れたことがニーダム(J.Needham)の逆説を否定することになるかどうか、一部はYes, 一部はNo, です。No の部分は中国の軍事力です。軍事力は市場経済にはなじまない部分です。すなわち、中国は軍事力の分野に力をいれており技術開発に積極的でありますが、採算性を度外視して開発に特化しています。つまりこの面では市場経済のルールは無視されているようです。

また開発論で言われる誘発的革新(induced innovation)論についても疑問です。速水祐次郎氏は、「ある生産要素が相対的に不足してくるとその相対価格が上がり、それを補うような技術進歩が誘発される」と誘発的革新を定義しています。しかし、中国においては相対価格による誘発よりも、軍事技術が優先され、また、労働力の豊富な中国では労働節約的な技術は必ずしも誘発されない、とも思えるのですが。

第435夜 - ケ小平型開発戦略

1984年から経済の市場化に着手したケ小平の改革路線は、次のような特徴をもっていました。
@ 「開発独裁」に基づく、構造主義的(structuralist)開発政策であり、これが今日の「社会主義市場経済論」となっています。
A 先富論(反平等主義)、すなわち、先に豊かになれる地域や人から豊かになれ、という考えに立っています。
B 経済的分権化、あるいは市場化、すなわち、企業側においては合弁、法人化、株式化であり、一方消費者側からも消費者主権を認めます。
C 所有制度の多重化、すなわち、多重な所有制に移行はしますが、完全な私有制にはいたしません。
D 積極的対外開放による輸出促進と外資導入政策、比較優位を重視した政策を採る。

以上が中国に展開される独自の開発主義といえるでしょう。この開発戦略はこれまでと同様に進めていくことが可能でしょうか。以下に連夜にわたって、その問題点を、異論があるのを覚悟して敢えて掲げることといたしましょう。

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