マルサスについては第218夜と第380夜においてすでに触れていますが、その中の218夜、「『人口論』における自然の大饗宴」では以下のように引用しました。
すでに(誰かに)所有されてしまっている世界に生まれた者は、もし彼が両親から正当に要求し得る生活資料を得ることができず、またもし社会が彼の労働を欲しなかったならば、彼はどんなに小さな食料であってもそれを要求する権利を持たない。実際、彼がいまいるところに生存する必要はないのである。自然の大饗宴において、彼のために用意された空席はない。自然は彼に去れと言う。そしてもしその饗宴の客の誰かからあわれみの情をうけないなら、自然は直ちにその命令を実行する。
この言説は大内兵衛氏訳の初版『人口の原理』のなかの同氏の解説で触れられているものですが、紙数の関係でしょうか、その後の方が紹介されていません。この文脈はマルサス『人口論』の第2版に出ていますが、残念ながら邦訳はありません。でも余りにも名文かつ含蓄深い言葉ですので、思い切って「ハテナ」が拙訳を試みました。以下をご笑覧ください。
もしお客たちが立ち上がって彼の居場所を作ってやったとしても、他の侵入者がただちに現われ、同じ施しを求めるにちがいない。来る者すべてに施しをするということが伝わると、おびただしい物乞いたちでホールは満杯になるだろう。饗宴の秩序と調和が乱され、以前から保持されていた豊富さは、乏しさに変り、お客の幸福はあらゆるホールの各所で悲惨さと争いに満ちた絵巻物でうちへしがれ、そして期待してよいと見込まれた供給が得られなくなった途端に、怒りに達したひとびとの騒々しいしつこさで目茶目茶にされる。お客たちは、この偉大な饗宴を開催した女王が、彼女のすべてのお客に豊かさを持つことを望むが、無限の会員のための席を用意することはできず、彼女の用意した席がすでに満杯となったとき、新参者の入来を慈悲深くお断りすることを知るのに気づくのが余りにも遅すぎる。
(T.R.Malthus, Essay on the Principle of Population, 1803)
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